02.03.2004
仄暗い記憶の底から 4
ピマーイのクメール遺跡を見物し終えた僕は鉄道に乗ってメコン川ぞいの町へ向かっていた。列車はガラガラで、貸し切り列車みたいで気持ち良かった。駅に停車すると僕の車両に誰か人が乗ってくる気配がした。ああ、これで貸し切り状態も終わりか、と窓の外を眺めながら思った。ところがその人はガラガラの車内であるにもかかわらず僕の斜向いに腰を下ろした。しかも視線を感じる。うっとおしいやつじゃなければいいけど......。知らんぷりしてるわけにもいかないので僕は車内に顔を向けた。
意外なことにそこには十六、七歳の少女が座っていた。なにかタイ語をしゃべって、こちらを見ながら微笑んでいた。初めてのタイだ、言葉なんかわかるはずはない。彼女も言葉が通じないとわかるとタメ息をついたが、パっと僕の向い側の席に移って、さらに何か言い続けていた。
小麦色の肌、ショートカットの黒髪、大きな瞳、どこにでもいそうなタイの娘だ。その娘がニコニコしながら何か話しかけてきている、瞳は好奇心でいっぱいだ。少し挑戦的な、それでいて優しい瞳だった。二十七年間の貧弱な女性経験しかない僕の人生で、いままでこんな瞳で女の子に見つめられたことが一度でもあっただろうか。
同じ駅から乗ってきた少年たちが、全く言葉の通じない彼女のことをせせら笑っていた。少女はちらっとそいつらを見たが、すぐこちらに視線を戻して何事もなかったかのように微笑んで、しゃべり続けた。物怖じしない、それでいて水の流れのように自然で無邪気な情感にふれて、僕の中に驚きと喜びがジワジワと広がってゆくのを感じた。何度も洗って色落ちしたTシャツを着ていた。小さな胸のふくらみの上にはLOVEと言う文字がプリントしてあったのを今でも覚えている。
一体どうやって会話したのだったろうか。どうやらコラートにある友達の家に遊びに行って、今は自宅に帰るところらしい。奥さんはいるの?とか、カメラで一緒に写真を撮ってとかいっていた。カメラを持っていなかったのが残念だ。唯一彼女が知っている日本語は「サクラ」だった。しきりにサクラ、サクラと口にしていた。
住所の交換を済ませると、彼女の降りる駅に着いたらしく列車を降りて行った。僕の席の窓の下に悲しそうな顔をして立っていた。僕は何かあげるものはないか思案を巡らせた。そうだ、日本のコインがある。100円玉、10円玉、1円玉......、彼女にとっては外国のコインだろう。100円玉の裏表をしげしげと眺めていたので僕は「サクラ、サクラ」と言っておいた。たしか100円玉に刻んであるのはボタンの花だと思ったが......、まあいいや。少女はパッと笑顔になって、100円玉をかざしながら何かタイ語でいっていた。
あとは列車が発車して大きく手を振ってお別れ、という月並みなストーリーだった。たったそれだけのことさ。でも、あの時きっと僕の中のタイ人に対する構えというか緊張感のようなものが溶けだしたに違いない。あの小川のせせらぎのようにサラサラとした無邪気で自然な感情に、そしてあの少女の笑顔にどこかでまたあえるのじゃないだろうか? そんな秘かな期待が、僕をその後何度もアジアへの旅に誘ったに違いないのだ。
さて、この少女のガール度は? 93ガール.........高得点!
意外なことにそこには十六、七歳の少女が座っていた。なにかタイ語をしゃべって、こちらを見ながら微笑んでいた。初めてのタイだ、言葉なんかわかるはずはない。彼女も言葉が通じないとわかるとタメ息をついたが、パっと僕の向い側の席に移って、さらに何か言い続けていた。
小麦色の肌、ショートカットの黒髪、大きな瞳、どこにでもいそうなタイの娘だ。その娘がニコニコしながら何か話しかけてきている、瞳は好奇心でいっぱいだ。少し挑戦的な、それでいて優しい瞳だった。二十七年間の貧弱な女性経験しかない僕の人生で、いままでこんな瞳で女の子に見つめられたことが一度でもあっただろうか。
同じ駅から乗ってきた少年たちが、全く言葉の通じない彼女のことをせせら笑っていた。少女はちらっとそいつらを見たが、すぐこちらに視線を戻して何事もなかったかのように微笑んで、しゃべり続けた。物怖じしない、それでいて水の流れのように自然で無邪気な情感にふれて、僕の中に驚きと喜びがジワジワと広がってゆくのを感じた。何度も洗って色落ちしたTシャツを着ていた。小さな胸のふくらみの上にはLOVEと言う文字がプリントしてあったのを今でも覚えている。
一体どうやって会話したのだったろうか。どうやらコラートにある友達の家に遊びに行って、今は自宅に帰るところらしい。奥さんはいるの?とか、カメラで一緒に写真を撮ってとかいっていた。カメラを持っていなかったのが残念だ。唯一彼女が知っている日本語は「サクラ」だった。しきりにサクラ、サクラと口にしていた。
住所の交換を済ませると、彼女の降りる駅に着いたらしく列車を降りて行った。僕の席の窓の下に悲しそうな顔をして立っていた。僕は何かあげるものはないか思案を巡らせた。そうだ、日本のコインがある。100円玉、10円玉、1円玉......、彼女にとっては外国のコインだろう。100円玉の裏表をしげしげと眺めていたので僕は「サクラ、サクラ」と言っておいた。たしか100円玉に刻んであるのはボタンの花だと思ったが......、まあいいや。少女はパッと笑顔になって、100円玉をかざしながら何かタイ語でいっていた。
あとは列車が発車して大きく手を振ってお別れ、という月並みなストーリーだった。たったそれだけのことさ。でも、あの時きっと僕の中のタイ人に対する構えというか緊張感のようなものが溶けだしたに違いない。あの小川のせせらぎのようにサラサラとした無邪気で自然な感情に、そしてあの少女の笑顔にどこかでまたあえるのじゃないだろうか? そんな秘かな期待が、僕をその後何度もアジアへの旅に誘ったに違いないのだ。
さて、この少女のガール度は? 93ガール.........高得点!
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