10.12.2005
Victor Jara

今日仕事の帰りに寄った新宿のタワーレコードで2〜3年ぶりに音楽CDを買った。ビクトル・ハラのベスト版だ。若い頃、唯一はまった音楽がフォルクローレだった。アンデスのノスタルジックな音楽は日本人には親しみやすいからファンも多いし僕も好きだった。個人的には『コンドルは飛んでゆく』のような暗いペルーの音楽よりもボリビアのエネルギッシュな音が好きで、聞くたびに乾燥した高原地帯の深い青空の下で音が輪を描いて踊っているように思えたし、石ころが転がる大地を風が渡り、その中で生きる人間の孤独な運命のようなものを感じて心にしみた。あれからいろんな音楽を聴いては来たがどれもこれも自分の肌になじまない。最近JAZZなんか聴くようになって、エレクトリック・マイルスやフリージャズに突入したコルトレーンなんかをBGMにして仕事してたりするのだけど、すごい音だなと思いながらもどこかで違和感を感じているのは、僕の音楽の故郷が南米にあるからなのだ。
せっせと六本木にあるWAVEというレコード店で輸入版のフォルクローレを漁っていたが、いつのまにかチリの『ヌエバ・カンシオン(新しい歌)』という政治色の強いものを聴くようになっていった。ビクトル・ハラは『新しい歌』の運動のリーダー的存在だった。チリはペルーやボリビアのようにインディオやメスティソの色彩は強くなくて、スペイン系がほとんどを占めている。そのため音楽的にはアンデスのフォルクローレとは毛色が違って、独特の陰影を感じさせる不思議な音だった。ハラの声は優しくのびやかで、マッチョな印象のあるラテン系の男とは思えない。スペイン語の歌詞も彼の歌を聴くと暖かくて人間的な響きをもって僕の体内にしみ込んでくる。しかしまたその優しさの中には不屈の意志が脈打っている。
ご存知の通り、チリは平和的に社会主義政権が生まれた国で、『新しい歌』の運動はこのアジェンデ政権の成立と崩壊と運命を共にしている。この政権を支持し続けたコミュニストのハラはアメリカの支援を受けたピノチェットのクーデターのとき、多くのコミュニストとともに捕えられ、監禁されたうえ虐殺された。死の直前に発表されたいくつかの曲には死の予感ともとれる言葉が垣間見られ、作り上げてきた歴史が壊されて行くのを感じて発する静かな悲鳴のようにも聞こえ胸を打つ。
じつは押し入れの中には当時のビクトル・ハラやビオレッタ・パラ、インティ・イリマニ、キラパジュンなんていうチリのフォルクローレのコレクションが眠っているのだが、全部LPレコードで当時のステレオも壊れて聴こうにも聴けない状態にある。ふと、タワーレコードで見つけたビクトル・ハラのCDが懐かしくてちょっと買ってしまったというわけだ。実際に聴いてみるとうれしいことに初めて聴く曲もいくつか入っていた。昔夢中になった曲を聴いてると当時の安アパートの一室で寒い日にコタツにもぐって同じ曲を聴いてたことなんかをを思い出してしまうよ。
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